8. 8020と長寿
世界一長寿であるわが国では、100歳以上の長寿者(百寿者)に対してさまざまな調査が行なわれています。
次の図は、それぞれ全国の百寿者に対して行なった面接診査による調査結果ですが、ある一定の人たちは100歳になっても自分の歯を残すことができており[図1]、それは若いころから栄養のバランスを考えた食事をするなど健康な生活習慣を続けてきた結果であり[図2]、いろいろな食事を楽しむことができていると言えるようです。
アメリカのブレスロー博士らは、「長寿になる人は7つの生活習慣 (ライフスタイル)と社会的なネットワークをもっている 」という考え方をもって、1965年よりカリフォルニア州アラメダ地区の住民を対象に健康状態を長期間追跡調査しました[図3]。これは、対象者がこの「7つの生活習慣」を実践していれば得点を与え、その得点と身体的な健康度との関係を追跡し、併せて「社会的なネットワークに関する項目」についても調査したものです。 その結果、調査開始時に「7つの生活習慣」をもっていた人で約9年半後もそれを維持して高得点の人は低い得点の人に比べ長寿である割合が2倍になり、また社会的なネットワークの有無は60歳以上で重要となり、それによって長寿になる割合にも2倍の差があることがわかりました[図4]。
8020達成者とそうでない人(対象者)は、歯の保有のために生活習慣や生活態度に、どのような違いが関係していたかを調査する愛知県内での取組みはすでにお伝えしてきましたが、この研究は8020達成者と対象者の生存状況も継続的に調査を行なっています。その2つのグループを、80歳を起点として10年間追跡して、各々の生存率をカプラン・マイヤー法(※1)で算出、ならびに3ヵ月ごとにログランク法(※2)で検定して8020と長寿との関係を分析しました。
その結果として、男性には2つのグループに有意差があり、歯の有無と長寿との関連が認められましたが、女性には認められませんでした[図5]。そこで、80歳時点での調査における「食事を1日1回は自分で作りますか」という質問に注目して分析したところ、男性では有意差が見られませんでしたが、反対に女性ははっきりとした有意差があり[図6]、これは「食事を自分で作る人は長寿」という傾向を示すものと考えることができます。
以上のことから、男性は歯の有無(8020)が生存率に影響し、一方女性は食事を自分で作ることの方が生存率に影響していると考えられます。高齢になっても自分の歯で食事をおいしく食べること、また自分で食事を作ることで日常生活を楽しむことは、男女ともにその人の「生きがい」に深く関係していて、そういう点からも8020運動は健康で生きがいのある生活を送れるように支援する取り組みであると言えます。
(※1)カプラン・マイヤー法
生存分析の手法のひとつで、生存率曲線を描くことで生存時間の推定を行なうものです。死亡発生の時点ごとに生存数を積算してゆき、2つ以上の群(グループ)の差を階段状の軌跡で視覚的に見ることができます。
(※2)ログランク法
カプラン・マイヤー法で作成するグラフは、2群に差があるかどうか視覚的に把握しやすいですが、分析には有意差があるかどうか検定する必要があり、ログランク検定はその検定の方法の1つです。
中垣晴男 著:日本歯科評論 通刊第802号 「8020と健康科学」、 株式会社ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2009年 より 文献 | |
1) | 山口進也ほか:100歳以上の高齢者の口腔疾患に関する疫学的調査. 日歯保誌,28(4):1412-1433,1985. |
2) | 健康・体力づくり事業団:平成5年度長寿者保健福祉調査報告書. p27,41,1993. |
3) | Breslow L:Prospects for health promotion/disease prevention among the elderly.'90長寿科学シンポジウム(Proceeding),p154-170,長寿科学シンポジウム実行委員会・長寿科学振興財団,1991. |
4) | Morita I,et al:Relationship between survival rates and numbers of natural teeth in an elderly Japanese population. Gerodontology,23:214-218,2006. |
5) | Morita I,et al:(unpublished) |
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