はじめに
「80歳で20歯以上を自分の歯を持つ」という8020運動の取組みについては、すでに多くの方がご存知だと思います。
今回は、20年以上に及ぶこの運動がどのような経緯でスタートして、現在のように発展してきたのかについてお伝えしたいと思います。
1983年、朝倉らはわが国の58食品の硬さを測定※注し、義歯を付けた人にその食品が噛めるかどうかを質問して「食品モデル咀嚼能力調査票」を完成させました[図1]。その後、後藤らはそれを用いて最も噛みにくい「酢だこ」と「古たくあん」は喪失歯が10歯で咀嚼能力が60%まで減少することを明らかにしています[図2]。それにより、1987年の地域歯科保健所研究会(厚木ワークショップ)において「平均寿命の80歳までに失う歯は10歯以内にしよう」という" 8010運動"がはじめて提案されました。
しかし、1989年に愛知県の衛生対策歯科専門部会で、県民のスローガンにするためには「失った歯を数えるのではなく、全ての歯から失う歯を除き残る歯の数(28歯-10歯≒20歯)を目標に、80歳で20歯以上の自分の歯を持つこと。」という意見にまとまり、"8020運動"がここで始めて提唱されました。これが、同じ年の旧厚生省(現厚生労働省) 成人歯科保健問題検討会中間報告で取り上げられ、全国的に知られる契機になりました。
1990年より、愛知県における80歳歯科健康調査や、常滑市における8020達成者の現在・過去の生活習慣や栄養食事習慣の調査がスタートして、その後疫学的なアプローチによる研究が盛んになりました。一方、口腔衛生の施策面でも、8020運動が1991年の「歯の衛生週間」の重点目標になり、翌1992年には厚生省の「8020(ハチマル・ニイマル)運動推進対策事業」が開始され、それ以降さまざまな研究や施策が行われてきました。
2001年には、国の健康政策「健康日本21」 (第三次国民健康づくり運動)9領域の1つに「歯の健康」が掲げられ、そこに8020の目標が入りました。
(「健康日本21」については、デントレ通信VOL18-1, 2、VOL19-1,2、VOL20-1もあわせてご覧ください。)
2011(平成23)年に、厚生労働省より「健康日本21」の最終評価が公表されていますが、80歳で20歯以上の自分の歯を持つ人(8020達成者)の割合は、ベースライン値(平成5年歯科疾患実態調査)と比べると目標値を大きく超えて増えていることがわかります[図3]。
また、例えば愛知県歯科医師会では、1989(平成元)年度から毎年80歳で20歯以上の自分の歯を持っている人を募集してそれを表彰する事業を行っていますが、表彰される人は年々増えてきて、2011(平成23)年度までに男性14,649名、女性17,335名、合計31,984名が8020達成者として表彰されています[図4]。全国各地でもこれと同様の事業が行われてきています。
中垣晴男ら 著:[改定5版] 臨床家のための口腔衛 生学、永末書店、2012年 より
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