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デントレ通信.vol16.1

シリーズ:8020と健康科学

11. 8020研究の世界への発信

8020運動は、1989年以来これまでに熱心に展開されてきたものの学問的な研究は多くはありませんでしたが、近年報告されるようになってきました。そこで今回は、世界に発信された8020研究の総説のご紹介と最近の調査研究の概要についてお伝えいたします。


国際誌に紹介された8020研究の総説 1)

1. 80歳高齢者の歯の状態

2. 8020達成者の口腔状態

注1)CPI…各地域の歯周疾患の進行状態を示す指数のこと。
8020達成者の口腔状態は、各調査において非達成者よりも優れていた。

3. 8020達成者の健康状態

8020達成者の健康状態は、各調査において非達成者よりも優れていた。

4. 小児期・成人期と現在の毎日の生活行動、QOL注2)、生存率

●小児期・成人期の傾向について
小児期 … お菓子を好まない、厳密なしつけを受ける
40歳時 … 早めに歯科医を受診する
60歳時 … 歯肉の腫脹がない

●現在のQOLについて
・90%は人生に満足している
・85%は健康的であると感じている
・日常生活(ADL)の活動レベルは非達成者より高い

●生存率について(80歳から10年間、2006年調査)
・男性は8020達成者の方が累積生存率が高い
・女性は有意な差は認められなかった

注2)QOL…生活の質のこと。


愛知県、福岡県、新潟県における最近の研究から

[1] 8020運動表彰者数の推移 2)
愛知県歯科医師会による8020運動の表彰者数(累積)

[2] 保有歯の咬合数と健康観の関係 3)
岡崎市と常滑市在住の80歳高齢者107名への調査
・咬合できる状態を保つことが、全身の健康観の維持向上に関連することが分かった。

[3] 下額骨の骨粗しょう症化と骨吸収マーカー亢進の関係 4)
愛知県内の4市町在住の80歳高齢者について調査
・下額骨皮質骨の厚みが薄い人は、骨吸収マーカー(ICTP)の値が高く骨代謝回転の亢進がみられた。

[4] 住民への介入研究 5)
「歯の健康づくり得点」が15点以下の住民446名を3群に分けて3年間の介入調査を実施
・得点を向上させるためには、歯科衛生士による個別訪問が最も効果的だが費用対効果は低く、リーフレット郵送(3回)は最も費用対効果が高い。

[5] 80歳高齢者の保有歯数と心電図所見 6)
福岡市内の9町村在住の80歳高齢者697名への調査
・8020達成者の心電図は虚血性変化(ST低下、T波異常、異常O波)を示す異常所見の頻度が少なかった。

[6] 咀嚼機能と長寿の関係 7)
[5]の80歳高齢者697名の4年後を調査
・咀嚼機能が低い人は、高い人に比べて死亡リスクが約3倍高かった。

[7] 口腔の健康と死因の関係
福岡県在住の80歳高齢者を調査
・咀嚼機能が低い人は心血管疾患での死亡リスクが高い。 8)
・歯周ポケットの数と肺炎による死亡との相関もみられた。 9)

[8] 食品摂取と現在歯数との関連 10)
74歳高齢者に対する3日間の秤量調査
・20歯以上残っている人は、野菜と魚類を多く摂っている傾向があった。

[9] 全身的骨代謝マーカーと下額骨評価指標の関連 11)
75歳高齢者で、下額骨下縁皮質骨に異常所見がみられる群は、正常群と比べて骨代謝マーカーが有意に亢進していた。

1989年にスタートした8020運動は、世界最長寿の国である日本発のヘルスプロモーション運動です。
今後、これらの調査研究を通して、8020運動がライフコース疫学 注3)の考え方にしたがい小児期からの運動として広がることで、'Eighty-Twenty Campaign'という世界的な運動として発展してゆくことが期待されます。

注3)身体的・社会的な健康や疾病リスクに影響を与える妊娠期間、幼年期、青年期、成人期における生活習慣の研究


中垣晴男 著:日本歯科評論
通刊第805号 「8020と健康科学」、
株式会社ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2009年 より

文献
1) Yamanaka K, et al: Comparison the health condition between the 8020 achievers and the 8020 non-achievers.
Int Dent J, 58: 146-150, 2008.
2) 愛知県歯科医師会資料, 2011.
3) Morita I, et al: Relationship between number of natural teeth in older Japanese people and health related functioning.
J Oral Rehabil, 34: 428-432, 2007.
4) Morita I, et al: Relationship between mandibular cortical bone measures and biochemical markers of bone turnover in elderly Japanese men and women. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod, 2009 (in press).
5) 榊原康人ほか: 住民の歯の健康づくり得点向上のための歯科衛生士訪問およびリーフレット郵送による介入研究. 日本公衛誌, 56, 2009.
6) Takata Y, et al: Relationship between tooth loss and electrocardiographic abnormalities in octogenarians.
J Dent Res, 80: 1648-1652, 2001.
7) Ansai T, et al: Relationship between chewing ability and 4-year mortality in a cohort of 80-year-old Japanese people.
Oral Dis, 13: 214-219,2007.
8) Ansai T, et al: Association of chewing ability with cardiovascular disease mortality in the 80-year-old Japanese population.
Eur J Cardiovasc Prev Rehabil, 15: 104-106, 2008.
9) Awano S, et al: Oral health and mortality risk from pneumonia in the elderly. J Dent Res, 87: 334-339, 2008.
10) Yoshihara A, et al: The relationship between dietary intake and the number of teeth in elderly Japanese subjects.
Gerodontology, 22: 211-218, 2005.
11) Deguchi T, et al: Relationship between mandibular inferior cortex and general bone metabo lism in older adults.
Osteoporosis international. 19: 935-940, 2008.



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