2.健康創造(サルトジェネシス)と8020運動
健康創造(サルトジェネシス)を提唱した医療社会学者アントノフスキー(Aaron Antonovsky:1923-1994)によれば、ナチスドイツの強制収容所から奇跡的に生還した女性たちの3割が、『死と隣り合せ』という極めて過酷な状況の中で、良好な健康状態を維持していたことが研究のきっかけだったそうです。そこで明らかになったのは、その健康な女性たちが共通して持っている「前向き姿勢」もしくは「首尾一貫感覚(SOC)」の発見でした。これによりアントノフスキーは、「今日まで医学や公衆衛生は病気になる理由を解析することが中心 (disease-oriented)であった。しかし、健康はそれを維持した人の理由を解析されるべき(health-oriented)で、両者が研究の両輪であるべきである。1)」と述べています。
SOCとは、「自分の生きている世界は道筋が通っていて『納得できる』という感覚」です。これは、
@自分の置かれている状況が理解できる(把握可能感)
A何とかやって行ける(処理可能感)
B日々生きる意味が感じられる(有意味感)
の3つから成り立ちます。
アントノフスキーによれば、「人はストレス、すなわちストレッサーに対して緊張状態になる。その結果、病理的になるか、中立的になるか、健康的になるかはその緊張をどう処理するか、その適切さに依存している。」 と述べています。この処理には、「GRRs(=ストレス抵抗資源)」と呼ばれる要素(文化的な安定性、社会的支援、経済性、自己の強さなど)の優劣が深く関係しており、これらをSOCの感覚によって自分を上手く納得させながらストレスを解決して行きます。GRRsを生み出す素は、子どもの成長環境や社会的役割の形成が深く関係すると言われ、また一方で緊張処理の成功経験の積み重ねがSOCを育てると言われています。 1)
SOCと健康についての研究では、例えば次のような報告があります。
・SOCが低いと、慢性心疾患リスクは
1.62倍高い2)
・SOCが高いと、脳梗塞リスクは低い3)
・SOCが高いと、病気欠勤率は低
い4) また、死亡率も低い5)
・さらに、免疫機能とも関係して
いる6)
さらに、口腔内の健康状態については、次のような報告があります。
下の図-1を見ると、SOCが高いほど口腔のQOL(生活の質)も良好な状態であることが分かります。
この調査は、フィンランドのサボライネン教授が成人を対象にSOCとOHIP(※注参照:QOLの代用特性)との関係を調査した報告です。例えば「ハンディキャップ」を持つ人でも、「それでも何とかやって行ける」「生きる意味を見出している」という感覚で困難を克服できている人は、口腔内が健康な状態だと言えます。
(※注)OHIP:口腔内のQOLを示す7領域における指数のこと。49の質問項目で構成されています。
一方、8020達成には口腔内の健康を維持すること、それは生涯を通しての生活習慣が大切であることが分かって来ました。すでに見てきたように、良好な生活習慣を作るためにはSOCの育成が重要です。
図-2のように、生涯にわたる強いSOCのもとができるのは乳幼児期であり、母親などとの良好な関係を通して安心感に支えられた信頼感を育むことが大切です。また、思春期の第二次性徴の現れがSOCに強く影響を与え、成年期以降次第に確立して行きます。8)
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