7. 国の健康力もあらわす8020
OECD(世界協力開発機構)加盟30ヶ国(2005年)の中で比較すると、男女合わせた平均で最も長寿の国(日本:82.1歳)から最も短い国(トルコ:71.4歳)と格差があり、その国の衛生状態や食生活などが影響する乳児死亡率、結核死亡率、生活習慣病などによる死亡率などが影響していると考えられます。
また、歯の健康に関しては、OECDのデータ(2003年)では12歳児の平均DMFT指数(※)が最も小さいのはドイツ(0.7)、逆に最も大きいのはポーランド(3.8)で、日本は全加盟国の平均 (1.6)に位置しています。
(※) DMFT指数とは、被検者全員の@治療していないむし歯(D)、Aむし歯が原因で抜かれた歯(M)、Bむし歯を治療した歯(F)の合計歯数を調べて、被検者数で割ったものです。
それでは、世界の人びとの健康状態はどうでしょうか。
一般に、健康状態を知るためには、身体的、精神的な側面を含む健康の全体的な認知状況を調べるとされています。OECDでは、「一般的にあなたの健康はいかがですか?」という質問に、「とても良い・良い・普通・悪い・とても悪い」の中から「とても良い」「良い」と回答した人びとを「自覚的健康状態が高い」と評価し、各国を比較しています。 [図1]
「自覚的健康状態」は、日本は20ヶ国の下から2番目に位置しており、長寿であっても健康状態への自覚的評価は低いと言えます。
また、家族以外の友人などとの付き合い(社会的接触度)から「社会的孤立度」を調べたデータ(20ヶ国比較)では、家族以外との社会的接触について「まったく付き合わない」「滅多に付き合わない」と答えた人の割合を比較しています。[図2]
「社会的孤立度」は、20ヶ国の中で日本が最も高い値です。
これらの結果から、日本人は世界一長寿であっても、自覚的健康や社会的孤立という観点では決して良い状態にあるとは言えません。
一方、2000年と2005年に世界12ヶ国(フィリピン、韓国、ベトナム、タイ、モンゴル、ミャンマー、ギリシャ、ドイツ、オーストリア、スイス、ブラジル、日本)を対象に歯の健康づくり得点の調査を行っています。[図3]は、2000年に各国の大学生(医学部、歯学部を除く18〜24歳)の男女合計6,484名に行った調査結果の一部を示しています。
人びとが、一般の健康と歯の健康についてどのように考えているかを知るために、健康測定法に関する「Measuring Health」(MacDowell and Newell 1996)という研究書の中にあるMOS(Medical Outcome Study Form-20)という社会的健康度をあらわす指標(※)を用いて測定した結果があります。
(※) @身体的機能、A日常的機能、B社会生活機能、C心の健康、D健康観、E痛みの6項目。例えば健康観については、「あなたの健康であてはまるものはどれですか?」という質問に「大変良い・人並みである・最近よくない・病気である」の中から回答するものです。
この指標と、「歯の健康づくり得点」で得た結果を用いて両者の関係性を調べると、「健康観」と「心の健康」の2項目で有意な相関関係が認められました。[図4]は「健康観」の相関を示していますが、「心の健康」についても、ほぼ同様の傾向でした。
したがって、歯の健康を知ることは、心の健康や一般の健康観を知るための「健康のバロメータ」の1つになると考えられます。
中垣晴男 著:日本歯科評論 通刊第801号 「8020と健康科学」、 株式会社ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2009年 より 文献 | |
1) | OECD(鐘ヶ江葉子訳):図表で見る世界の保健医療,OECDインディケータ (2007年版). 明石書店,東京,2008. |
2) | OECD(井原辰雄訳):世界の社会政策の動向,OECDインディケータ (2007年版). p30-31,明石書店,東京,2008. |
3) | 福沢歌織:世界11か国の大学生における健康観と歯の健康観. 愛知学院大学大学院歯学研究科博士(歯学)論文,2005. |
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