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vol.10.1
口腔ケアや健康についての情報を提供してまいります。
5. 健康づくりへの生活習慣と8020運動
歯の健康と生活習慣病の関係
8020運動の調査から、80歳で20歯を持つためには生涯を通じて食習慣や生活習慣に気をつけること、それは乳児や小児のころから開始されること、また成人や高齢者の健康とも関連していることなどが明らかにされてきています。
我が国は、急激な高齢化や生活習慣の多様化に伴い、糖尿病や循環器疾患、がん、歯周病などの生活習慣病の増加が問題になっています。生活習慣病とは、生活習慣(食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒など)が関与して発症や進行します。この生活習慣病の集積がメタボリックシンドロームであり、歯周病はそのリスク因子の1つです。
最近の研究により、歯周病は[図1]のようにいくつかの生活習慣病との関連が分かってきており、「口腔内に限られた影響」という概念から「全身へ影響を及ぼす可能性があるリスク因子」として認識されるようになってきました。つまり、歯周病を単に口腔内の問題にとどめず、他の生活習慣病との関連で論じるべきであるという考え方です。
これは、例えば糖尿病に関しては「糖尿病が良くなれば歯周病が改善する」という考え方に繋がり、また反対に「歯周病の改善が糖尿病を改善させる」という双方向に関連する可能性をもっていると言うことができます。このため、2年前より日本糖尿病協会の「糖尿病手帳」に歯科が加わり、「糖尿病連携手帳」に変わりました。
歯の健康づくり得点による成人の生活習慣調査
下の図は、2006年に愛知県内の成人22,575名を対象に、歯の健康に関する生活習慣を「歯の健康づくり得点」の各項目について、歯の喪失が始まる40歳を基準にして男女別に傾向をまとめたものです。[図2],[図3]
これらの結果から、成人の生活習慣は年齢や性別によってかなり異なる対応であることが分かります。
8020調査から生まれた歯の保有や喪失を予測する「歯の健康づくり得点」は、その得点ばかりではなく、歯の生活習慣を知ることにも役立っています。
小児期および思春期と生活習慣形成
8020の研究を通して、乳歯のむし歯経験がある人は永久歯がむし歯になりやすいことや、1歳6ヶ月児の食事や生活習慣が3歳になったときのむし歯発生と関連があることが報告されており、すでにこの時期において生活習慣が歯の健康に関連していると考えられます。また、子どもから大人への移行期である思春期は「将来どんな人間になるか」を決める重要な時期ですが、身体の発達が早いため心身のバランスを崩しやすい時期でもあります。したがって、乳幼児期での健康な生活習慣の形成や前向き姿勢を育むことにより、思春期における心身のバランスがとれた生活習慣を形成でき、生涯の健康づくりに寄与するものとなります。
共通の生活習慣とからだの健康
「健康や病気に関係する生活習慣については、歯科疾患も含め共通の生活習慣病リスクが関わっていて、健康づくりにはその共通生活習慣病に対するアプローチが重要である」という考え方が、ロンドン大学のシャイハム(Sheiham.A)教授によって指摘されています。4)
すなわち、う蝕(むし歯)、歯周病などの歯科疾患だけでなく、肥満、心疾患、糖尿病、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、皮膚疾患などの慢性疾患でも共通の生活習慣が関係するという考え方です。[図4]
これら生活習慣病は、共通する生活習慣への対策を行うことが重要と考えられ、1つの分野だけで対策を進めることは非効率です。
すなわち、健康づくりのためには、医科、歯科、薬科、保健科、栄養科など「医療保健チーム」として協力して働きかけをすることがますます大切になっています。なぜなら、生活習慣は通常1つの分野からの働きかけだけでは変わりにくいですが、いろいろな分野から少しずつ繰り返し働きかけることにより、自律的な改善が期待できると考えられているからです。そして、この考えを進めてゆくと、健康的な生活習慣を通して8020を達成することが、共通する生活習慣における他の生活習慣病の改善に繋がると言えます。
中垣晴男 著:日本歯科評論 通刊第799号 「8020と健康科学」、
株式会社ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2009年 より
文 献
1) 井後純子:ライフコース疫学に基づいた都道府県健康増進計画と歯の健康づくり活動の推進. 第67回公
衆衛生学会総会抄録 (日本公衆衛生雑誌,55 (10) 付録),P137,2008.
2) 森田一三ほか:8020達成のための市町村「歯の健康づくり得点」の作成. 日本公衛誌,47:421-429,
2000.
3) Morita I,et al:Development of an Oral salutogenic checklist to promote lifelong oral
healthiness in Japanese adults. Oral Health Prev Dent,6:287-294,2008.
4) Sheiham A,Watt RG:The common risk factor approach a rational basis for promoting oral
health. Community Dent Oral Epidemiol,28:399-406,2000.
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