HOME > デントレ通信vol14

お役立ち情報 vol.14.1


口腔ケアや健康についての情報を提供してまいります。

お役立ち情報

9. ソーシャル・キャピタルと8020

「孤独なボウリング」とソーシャル・キャピタル

8020の達成は、個人のライフスタイルや社会との絆(ネットワーク)、そして地域社会の文化組織力と関係があって初めて成立するものと言えます。 それは、社会学の分野で現在注目されている「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本) 」も、歯や身体の健康にとって重要だと考えられてきたからです。

ソーシャル・キャピタルとは、電気水道、鉄道、道路などインフラを表わす一般的な資本の捉え方ではなく、「社会的なつながり(ネットワーク)とそこから生まれる規範・信頼であり,共通の目的に向けて効果的に協調行動へ導く社会組織の特徴」1)を表わすものです。

ハーバード大学のロバート・パットナム教授は、 2000年に「ボウリング・アローン」 (邦題:「孤独なボウリング」)という著書の中で、このソーシャル・キャピタルという概念を提唱し、アメリカにおけるコミュニティ崩壊の危機を例えて、「地域のボウリングクラブに加入してグループで楽しむことはせず、1人で黙々とボウリングをしている孤独な姿」を、ソーシャル・キャピタルが衰退している社会の象徴としています 2)3)

また、パットナム教授は、1993年に「Making Democracy Work」(邦題:「哲学する民主主義」)の中で、州政府の制度パフォーマンスが高いイタリア北部と相対的に低い南部との違いを、「選挙の投票率」「国民投票の投票率」「新聞購読率」「結社の数」の4つの指標による「市民共同体指数」というものを用いて分析しました。その結果、南北に[図1]のような違いがあることが分かりました。

パットナム教授は、これこそがソーシャル・キャピタルの豊かさの違いであり、民主主義を機能させるカギであると主張しています。

ソーシャル・キャピタルと社会

ソーシャル・キャピタルが豊かな社会とそうでない社会は、[図2]のような特徴があると考えられます。

この特徴と、わが国の現状に思いを馳せたとき、愛知学院大学法学部の梅川正美教授は、「第二次世界大戦後、日本の社会学は、わが国が有していたソーシャル・キャピタルを重要視しなかったのではないか」と指摘しています。

ソーシャル・キャピタルとからだの健康

健康に影響する因子をミクロやマクロの視点から分類すると、健康は次の3つに分けられます[図3]

(3) の「環境としての社会」の視点では、「ソーシャル・キャピタルが豊かな地域ほど住民の主観的健康観が高く死亡率が低い」4)という報告もあり、公衆衛生分野からも注目を集めています。例えば「スポーツ参加率と喫煙者率」には負の相関が見られ、他にも「スポーツをしている人と心疾患の年齢調整死亡率」、「社交的な人と脳血管疾患及び心疾患」にも負の相関が見られました[図4]。ただし、ソーシャル・キャピタルに類似する概念は多く、今後整理すべき課題は残っているようです 4)

ソーシャル・キャピタルと歯の健康

一方、ソーシャル・キャピタルの豊かさと歯の健康との関係を調べるため、都道府県別にみた「趣味・娯楽の参加率」と幼児、児童のむし歯との関係を分析しています。 [図5]
その結果、むし歯と「趣味・娯楽の参加率」には相関関係があることが認められました。

また、「ボランティア・社会活動の参加率」とむし歯の関係についても、相関関係は明らかになっています。[図6]

※DMFT指数とは、被検者全員の①治療していないむし歯(D)、②むし歯が原因で抜かれた歯(M)、③むし歯を治療した歯(F)の合計歯数を調べて、被検者数で割ったものです。

中垣晴男 著:日本歯科評論 通刊第803号 「8020と健康科学」、
株式会社ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2009年 より

文献
  1. 1)内閣府国民生活局:ソーシャル・キャピタル-豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて. 2003.
  2. 2)Putnam RD:Bowling alone, the collapse and revival of American communitey.
    Simon & Schuster, New York, 2000.
  3. 3)パットナム R (柴内康文 訳):孤独なボウリング-米国コミュニティの崩壊と再生. 柏書房,東京,2006.
  4. 4)近藤克則:社会関係と健康(川上憲人ほか編:社会格差と健康),p163-266,東京大学出版会,東京,2006.

ページトップへ